GUZZLING GUZZLING
All good children go to heaven.
過去分 03
2003.06.25 予告編
2003.06.23 手抜きミステリー
2003.06.23 手抜きSF
2003.06.22 ペンギンの日
2003.06.21 ワタナベ先生
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02 01

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next予告編
あの日、天からの啓示を受けて僕は殺し屋になることにした。なぜ殺し屋なのかは解らない。ただ、僕には殺し屋の才能があるらしいという点には薄々気付いていた。だからって殺し屋になれと言うのも何だか安易で不条理な啓示だなあと思ったが、啓示というのは大抵不条理なものなのでその点については深く追求しないことにしている。そういえば以前、うっかり知人に「俺って殺し屋の才能があるみたいなんだけど、使い道無くって」 と漏らしたら 「それはどんな才能なんだ?それが殺し屋の才能だと何故わかったのだ?」 としつこく絡まれた事がある。面倒なので殺した。そのときはなんて無駄な才能だろうと思ったのだけど、殺し屋になってしまえばこの才能も無駄じゃなくなるってわけだ。

ところが、さあ殺し屋さんを開業するぞと思ってみたものの早くもこの職業には重大な欠陥があることに気付いた。お客様からの依頼をどうやって頂けば良いのだろう?仕事の内容を明かしてしまっては後ろに手が回るし、伏せてしまっては依頼人だって殺し屋さん営業中ですって解らないじゃないか。いろいろと迷った挙句、お悩み相談所のふりをして広告を出すことにした。まず「殺したい人は居ませんか」とちょっとドキッとするキャッチで煽って「現代人を脅かすストレスが…」「話すことで悩みの8割は解決」「どんなに憎い人でも殺すなんてわけには行きませんよね(笑)」「まずはお電話で(初回ご相談無料)」といった言葉を散りばめ、気さくに相談できる雰囲気を演出してみた。世間には悩みを持っている人はたくさんいるらしく、僕の予想に反して初日からたくさんの電話がかかって来た。

大半の悩み相談は本当に殺したいほど憎んでいるとは思えないものばかりで、話を30分ほど聞いてちょっとだけアドバイスをするとほとんどの人はそれっきり二度とかかってこなかった。二回目からは有料にしたのが効いてるのかもしれない。でもごくごくたまに、そいつは殺した方が良いよと思うケースもあった(僕なら殺してるだろう)。そんなときは「あなたのストレス解消のためにその人を殺して差し上げましょうか?」と言ってみる。本気とも冗談ともとれるトーンで話すのがコツだ。そこですぐ飛びついてくる場合もあるが、2,3日後に思いつめた声でかかってくる場合もある。相手が怖がったり怒ったりした場合は誠意を込めて「冗談がきつくて申し訳ありませんでした」と謝ればそれ以上のトラブルになることはなかった。

おかげさまで仕事は繁盛している。僕は仕事が速くてミスがないし、ちょっとした軽自動車が買える程度という殺し屋さんにしては手ごろな料金も好評のようだ。最初は秘密が漏れることを心配したのだけど「秘密が漏れた場合は真っ先に依頼人を殺します。"疑わしきは罰する"が当方の基本方針ですので、ちょっとでも、疑わしいことがあれば、事実関係を調べる前に始末します。そのつもりで」と最初に釘を刺してるので今のところ依頼者が誰かに秘密を漏らしている様子はない。それに依頼者達は罪の意識が薄いらしく殺人を依頼したことをあまり気にも留めていないようだ。世も末だねと思ったけど実際に殺してるのは僕なので文句は言わないでおこう。

ところで、カモフラージュで始めた悩み相談所の方は先月から探偵事務所に鞍替えした。こちらの方が本業の依頼を取りやすいと気付いたからだ。もちろん、表向きは悩み相談の延長線上で始めた事業ということにしてある。秘密の漏洩が少し心配だったけど事務担当の助手も雇った。助手は元依頼人の一人で、弱みもたっぷり握ってる上に一度怖い目に遭わせてあるのでそう簡単に裏切られることはないだろう。毎日文句を言いながらもちゃんと働いてくれている。この小さくて商売熱心と言えない探偵事務所にも、たまに犯罪絡みの調査依頼なんてのが入ってくることがある。こちらは僕が純粋に楽しむために道楽で首を突っ込んでるのだけど、なかなか面白くて本業がおろそかになってしまいそうなのがちょっと心配だ。

そんな僕のところに持ち込まれた奇妙な事件の数々を綴った「殺し屋探偵の後悔 〜先生また依頼人殺しちゃったんですかぁ?〜」が来月からスタートします。お楽しみに。(この予告編はフィクションです)

top2003.06.25

next手抜きミステリー
資産家の老人が自宅で殺害された。
当日、家にいた人たちのアリバイはどれも曖昧だった。
誰が犯人でもおかしくない状況の中、捜査は難航すると思われた。

事件の翌日、容疑者の中の特に怪しい3人が次々と自首してきた。
どの容疑者の証言も現場の状況と矛盾はなく、誰かを庇っている様子もない。
そして、それぞれもっともらしい動機を語っている。

捜査に行き詰った蟹丸警部は家に帰り息子に事件の事を話した。
(推理作家だか何だか知らないけど、事件の捜査過程を一般人に話して良いのかという疑問は忘れて欲しい)
「解りました、父さん。僕がその3人と麻雀をしてみましょう」
「そんなことで犯人が解るのか?」
「ええ、多分大丈夫です」

翌日、自首してきた3人の容疑者と蟹丸警部の息子の4人で麻雀が行われた。
結果は息子の一人勝ちで、3人の容疑者から大金を巻き上げた。
「それで犯人はわかったのか?」
「もちろんです。犯人は一番負けたやつです」
蟹丸警部は根拠を求めたが、息子は頑として答えなかった。
「まずは、他の2人に証言が嘘だと解ったら、どういう罪に問われるのかをじっくりと説明してあげてください。多少誇張しても構いません」
脅しならお手の物だと蟹丸警部は息子の言うとおりにした。
2人は泣きながら自分の証言が嘘であることを認めた。

「そろそろ種明かしをしてくれても良いだろう?」蟹丸警部は息子に尋ねた。
「この事件は犯人じゃない2人を当てるのがポイントだったんだろう?」
「まあ良いじゃないですか。事件は解決したのですから」
息子は相変わらず、その根拠を語ろうとはしなかった。

もちろん息子はあてずっぽうで言っただけで、最初から麻雀が目的だった。
こいつらなら事件で動揺してるから良いカモだと思ったのだ。

prevtop2003.06.23

next手抜きSF
料理をするロボットを作った。故障した。
修理したが失敗した。ロボットは限りなく料理を作り続けるようになった。
やがて冷蔵庫が空になった。ロボットは外に飛び出した。
隣の家のドアを破壊し、進入し、奥さんを押し除け料理を始めた。
やはり冷蔵庫が空になるまで料理を作り続けた。
マンションのすべての冷蔵庫が空になり3000人前のおいしい料理が残った。

ロボットは場所を変えて次々と料理を作り続けた。
料理はたくさんあるが食べきれない。保存してもロボットが見つけて焼却。
ご都合主義の設定で悪いがこのロボットは最強の戦闘能力も持っている。
誰も止めることができない。
更にご都合主義。
そのロボットの自己修復能力が暴走し、自らのコピーを作り始めた。
世界中にそのロボットのコピーが広まっていった。

あれから3年、ロボット達はまだ料理を作り続けている。
ご都合主義的な事情があって誰も止められなかったのだ。
材料がどこにも見つからなくなるとロボットは自ら材料を調達し始めた。
畑から野菜を抜き、動物を捕らえ、海をさらい、鳥を撃ち落し、虫を穿り返した。
それも尽きるとまあ予想通りお約束の結末が待っていた。

困ったことにこれが結構いける。

prevtop2003.06.23

nextペンギンの日
「ペンギンにも人権を」と主張するホームページを作った。もちろん冗談で作ったのだけど、こういう冗談はふざけてやっても面白くないので、デザインも文言も慎重に検討して、あたかも本気で真面目で切実に「ペンギンにも人権を」と主張しているかのように書いた。可愛らしいマスコットキャラクタも作った。

ありがたいことに雑誌で紹介されたり、いろいろなところからリンクされて多くの人が僕の作ったホームページを見にきてくれているようになり、メールもたくさんの届いた。「面白い最高だ」と言ってくれるとやはり嬉しい。中には「もっと冗談だと解るように書けば良いですよ」という助言もあったけど、そういう人のホームページは大抵つまらなかった。驚いたのは「ペンギンに人権なんかあるわけないだろ、馬鹿」という意見が意外と多かったことだ。中には人権について真面目な講釈を書いてくる人までいた。僕より暇な人が大勢居るって事かもしれない。冗談というのはなかなか難しいものだ。

そのうちもっと驚くメールが届いた。「ご意見に感銘しました。私も微力ながらお手伝いさせてください」というものだ。最初はもちろん冗談だと思った。なかなかセンスのある人だとすら思った。そのうち同じ人から「支部を作りましたリンクしてください」「動物園に抗議に行きました」というメールが来るようになり初めてこの人が本気だということに気づいた。本気にするのは勝手だが、行動に出られると僕のホームページが原因だと言われるかもしれない。何か対策をしなければ。

信じられないことに「ペンギンにも人権を」に同調する人は日増しに増えている。いつの間にか数ヶ国語に翻訳され、海外にも支部ができているらしい。毎日ものすごい数のメールが世界中から届くようになったが、もう誰も僕のページを面白いとは言ってくれない。「ペンギンにも人権を」に賛同する人と反対する人のメールしか来ないのだ。僕は怖くなってホームページを閉鎖した。メールアドレスも削除したのでもう馬鹿騒ぎに巻き込まれることはないだろう。

確かに僕は馬鹿騒ぎの中心から逃れることができた。でも、既にそんなことはどうでも良い段階になっていたらしく「ペンギンにも人権を」運動は世界的な規模で着実に参加者を増やしている。閉鎖した僕のホームページも既にバイブルと化していて複製があちこちに置かれている。マスコミも最初は頭のおかしい人たちの変な運動として扱っていたが、運動が大きくなるにつれ同調するようになってきた。何かが狂っている。

ついに幾つかの国でペンギンに人権が認められてしまった。数年以内にすべての国で認められるようになるだろうと言われている。南極を独立国にしてペンギンのための国家を作ろうという運動も起きている。「ペンギンにも人権を」運動発祥の地であるこの国でも法整備が急ピッチで進められていて、事実上ペンギンは市民として扱われている。ペンギンはもう人なのだ。

ときどき、あのページを作ったのは僕なんですとカミングアウトしようかという衝動に駆られることがある。カリスマ扱いされるだろうか、それとも余計なことしやがってと袋叩きに会うか。いや多分、嘘だと思われるだけだろう。

prevtop2003.06.22

ワタナベ先生
ワタナベ先生が壊れた。僕のクラスは学級崩壊なので先生はそのことを毎日悩んでいたのだ。だから先生は壊れたに違いない。ワタナベ先生が壊れた時はみんなはどうして良いか解らなくなった。こんなときだけ女子は「先生がこんな風になったのは、あなたたちのせいだ」なんて言う。自分たちだって学級崩壊をやってたじゃないかと文句を言うと「私たちはそんなにやってない、私たちのせいじゃない」とか言い出す。そうやって喧嘩をしている間にも先生は黒板にみんなの似顔絵を描いたり、水槽のメダカの数を数えたり、タカシ君のドリルに勝手に答えを書いたりしている。

喧嘩なんかしてる場合じゃない。アベ先生に言いに行こうとクワノが言った。アベ先生は僕のクラスと隣のクラスの副担任だ。何しに来てるのか解らない先生だ。アベ先生に言ってもワタナベ先生が元に戻るとは思わないけど、誰かに言わなければいけない。するとコニシが、アベ先生に言ったらどうしてワタナベ先生が壊れたのか聞かれるぞと言った。それは困る、僕達のせいにされるに決まってる。それだけは嫌だ。みんなで相談した結果このままにしようということになった。どうせ授業はやってなかったんだし、先生が壊れても僕たちが教室ですることはおんなじだ。頭の良いヨシダは職員室に戻ったらばれるんだから隠さない方が良いと言ったけど、みんなはそのときはそのときだと反対した。

みんなの考えは正しかった。ワタナベ先生が壊れてから一週間たったけどまだばれていない。先生は壊れたままだし僕のクラスは学級崩壊したままだ。どうしてばれてないのか、誰にも解らなかった。他の先生に聞いたらばれそうな気がしたので聞くこともできなかった。ある日ヨシダが変なことを言い出した。先生は壊れたふりをしてるだけなんじゃないかというのだ。学級崩壊が嫌になって壊れたふりをしたらみんな静かになるんじゃないかと思って壊れたふりをしてるんだと。でも僕らのクラスは先生が壊れたあとも学級崩壊をしたままなんだからこのまま壊れ続けてるのはおかしいと僕が言うとクワノは大人は引っ込みがつかなくなるときがあるんだと言う。良くわからないけど恥ずかしくていまさら止めるわけにいかないということらしい。

どうしてワタナベ先生が壊れたことがばれていないか解った。実はもうばれていたのだ。職員室でもワタナベ先生は壊れてたんだけど先生方もワタナベ先生を学級崩壊のことで毎日いじめていたのでそのせいで壊れたと思って、見てみぬふりをしていたらしい。僕らがわざと黙っていることも知っていたみたいだ。それだけじゃない、ワタナベ先生以外にも壊れてる先生がたくさんいて、それもみんな見てみぬふりをしているらしい。そう言えば僕らのクラスも半分くらいは壊れてるし、僕のうちも兄ちゃんと婆ちゃんと犬のジョンと知らないおじさんが壊れてる。僕ももうちょっとで壊れるのだと思う。

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