GUZZLING All good children go to heaven. |
深夜の海岸を散歩していたら、子供たちが亀を虐めていた。
「無防備にやってきてこんなところで卵を産むなんて」 「掘り返してくださいと言ってるようなもんだ」 「自分達は保護してもらえるという甘えがあるんだろう」 「大仕事を終えたような顔なんかするんじゃない」 「保護センターのおじさんがこれから卵を保護するんだぞ」 「気付けよ」 酷い言われようだ。この子達と口論しても勝てる気はしないが、俺も一応大人なんでたしなめることにした。 「はいはい。君達、亀を虐めるのはやめなさい」 「虐めてなんかいませんよ。助言を与えているだけです」 「生きることの厳しさを教えてるんです」 予想していたとは言えこいつら手ごわい。ここで尻尾巻いて逃げるのも面白くないので何て言い返してやろうかと考えていたら、 「そうです。大いに参考になりました。僕の邪魔しないで下さい」 生意気にも亀が力強く反抗してきた。 「助けようとしている俺になんてこと言うんだこの爬虫類め。しかも卵産んでたのに僕って不思議ちゃんかお前は。だいたいしゃべるってのが気に食わねえな」 俺が甲羅を蹴り付けると亀が泣き出した。 「やっぱり、人間て酷い」 子供たちが俺を取り囲む。 「生き物の種類で差別するなんて」 「一人称に対する認識がステレオタイプすぎる」 「他の亀より優れていることがどうしていけないんだ」 気がつけば子供たちも泣いている。俺は逃げるようにその場を後にした。 竜宮城が経営不振に陥っているとしたら俺のせいです。
「霊感とか強いほうですか?」
「霊感?存在しないものに強いも弱いも無いな」 「そんなことありませんよ。私なんかめっちゃ霊感強いんですから」 「馬鹿か注目されたいだけの目立ちたがりか詐欺師のいずれかなんだろう」 「酷いこと言いますね」 「もしくはその全部か」 「こういった話が嫌いなのは解りましたよ。だからってそんな言い方しなくても…」 「悪いけどオカルトを全否定しない馬鹿と議論する気はないんだ」 「あんまり酷いことばかり言うと呪いますよ」 「呪うというのは人対人の関係だけだよ。君が私を呪っているという行為が私の気分を害して悪影響を与えるという効果があることは認めよう。それが呪いなのだと定義すれば呪いというのは確かに存在するだろうね」 「難しいことを言ってるつもりかもしれないけど、要は心理的な効果しかないって言ってるだけじゃありませんか。もう頭に来た呪ってやる」 「私にはそれを止める権利はない。君が私を呪うことによって私はとても傷つくがそれは仕方がないことなのだろう」 「あんたみたいな人でも私に憎まれると傷つくの?」 「そりゃそうだ。美しいご婦人から憎まれるというのは、その人がいくら馬鹿で目立ちたがりで詐欺師であっても辛いことだ」 「あったまきた。絶対呪ってやる」 「ご自由にどうぞ」 「じゃあ今ここで呪うね。『あなたが大嫌いです。二度と会いたくありません』」 …呪われた。
「少々変わったお願いなのですが、聞いていただけますか?」 疲れきった顔の依頼人はゆっくりと話を切り出した。
「ええ、ここにいらっしゃる方でありふれた依頼の方はいらっしゃいませんよ。どうぞご安心ください」 得意のマダムキラースマイルで私は答えた。依頼人にはあまり効果がないようだ。安藤が後ろで笑いをこらえてる。 「実は」 ここで小声になる、どの依頼人も一緒だ。「殺して欲しい人がいるのです」 視線を逸らすところも皆同じだ。 「解りました。それではご依頼の前にこちらのルールをお伝えします」 以前は一度はぐらかしたり何のことか解らないと惚けて反応を見るようにしていたのだが、最近は間を置かずに交渉をすることにしている。「ルールに納得していただけたらご依頼をお聞きすることにします」 「解りました。おっしゃる通りにします」 この段階でどのくらい本気で依頼しているかがなんとなく解る。具体的にどう違うと訊かれると困るのだが。 「ルールはとてもシンプルです。"一度依頼したらキャンセルはできない", "依頼内容が漏れたら依頼人に責任を取ってもらう" この2つだけ。いかがですか?」 録音されたときに備えて物騒な言葉は使わないようにしてある。 依頼人が少しだけ笑った。「安心しました。それなら必ず守れます」 ルールその2について質問してこないとは珍しい。 「それでは、ご依頼内容をお聞かせください」 休み明け最初の仕事はすんなりと決まりそうだ。 「はい、殺していただきたいのは…、私です」 依頼人は消えそうな声で依頼内容を告げた。ありがちな依頼だけど実際に受けるのは初めてだ。 「実行の日時は?」 「できるだけ早く」 「方法のご指定はありますか?」 「お任せします」 ズドン 「あ、馬鹿。じゃなくて、えーと、なんてことするんですか!」 安藤がどたどたと駆け寄って来た。 「安藤ちゃん、拳銃持った人に馬鹿って言ったね。言ったよね」 せっかくシンプルに片付いた仕事にケチを着けられて私は気分が良くない。 「そんなことより、どうするんですか?この人。」 安藤は銃口を避けながら泣きそうな顔をしている。 「どうするって、またいつものようにちゃちゃっと片付けちゃってよ」 後片付けは見習いの重要な仕事だ。未来の巨匠を目指して頑張れ。 「そうじゃなくて。お金ですよ、お・か・ね。取りっぱぐれちゃったじゃないですか」 そういいながら安藤は依頼人の所持品をあさり始めている。 「やばっ。安藤ちゃん言ってくれないんだもん」 安藤が鞄を探っている間に衣服をチェックしたが現金は一切出てこなかった。 「言う暇なんか無かったじゃないですか」 泣きをいれながらも、鞄に入っていた財布を探っている。 「何かでてきた?」 「財布には現金が2万ちょっと。キャッシュカードとクレジットカード、免許証、あとはいろんなポイントカード類ですね」 「2万しか持たないで来るか普通。あ、一応指輪とかもチェックしてね」 ときどき物納しようとする人がいる。そういう人には自力で現金に換えてから来るよう言ってるのだが、今回はそうも行かない。 「先生。被害者の周りにカメオの割れたやつみたいのが落ちてるんですけど」 「被害者とはなんだ。依頼人と言いなさいよ」 まったくデリカシーの無い奴だ。 「これ。撃たれたときに砕けたんじゃないですか?多分凄く高いものですよ」 安藤が言うのだからきっとそうなのだろう。欠片を見ただけで私にも露骨に高価なものと解る。これなら物納でも受けてたかもしれない。 「しゃーない。依頼人が払ってくれないなら関係者から頂くとするか。安藤ちゃん、こちらさんを丁寧にお送りしたら身辺を調べてみて」 「払ってくれないのは先生のせいでしょうに。まったく」 安藤は依頼人を送り出す準備をしながらもまだぶつぶつ言ってる。 「うるさいなあ。ブランクがあったんでまだ頭が冴えないんだよ。安藤ちゃんも虫弾食らってみろっての」 復帰後の最初の仕事はこうして始まった。
知り合いに頼まれ教育問題のシンポジウムのサクラをやる羽目になった。普段は縁の無い場でだったので一度断ったのだが、会場に出向いて聴衆として参加するだけだからと押し切られてしまった。興味の無い話を長時間にわたって聴いたせいか、途中からは睡魔との闘いになったが(ときどき敗れた)、それでもなんとか苦境を乗り切り、シンポジウムは教育評論家による講演を残すのみとなった。
司会者に紹介され出てきたのは、この場にはちょっと似合わない風貌の男性だった。教育評論家と言うよりはインチキな青年実業家といった肩書きが似合いそうな男だ。聴衆の好奇の目が注がれる中「いじめ問題の本質を考える」と名付けられた講演が始まった。 「現代においていじめ問題の本質的な原因は100%いじめられる側にあります」 客席が少しざわつく。それぞれ意見はあるのかもしれないが、少なくてもこの場ではかなりの暴言と言って良いだろう。「いじめる側」の言い間違いじゃないのか?そんなつぶやきがあちこちから聞こえてきた。 「繰り返します。現代においていじめ問題の本質的な原因は100%いじめられる側にあるのです」 男は「られる」を強調して話した。どうやら言い間違いではないようだ。意外にも聴衆は冷静に次の言葉を静かに待っている。私もこの男が何かのレトリックとしてこのような事を逆説的に言ってるのではないかと思っていた。 「いじめる側の子供達は、元はと言えばそのようなことをする子ではないのです。いじめられっ子さえ現れなければ、普通に楽しい学校生活を送ることが出来た筈のいい子ばかりです」 さすがにこれはまずいだろう。普段いじめ問題には無関心な私にはそんな資格は無いのかもしれないけど、さすがにこの男の意見には文句を言いたくなった。聴衆から野次が飛びまくるのではないかと思ったのだが、まだ誰も声を上げない。 「いじめられっ子は話し方やその振る舞いで、普通の子供達の健全な心を蝕み、暴力を振るったり酷いことを言ったりするような子供に変えてしまうのです」 ここまで無茶苦茶な事を言っているのに誰も文句を言わないのはどういうことだろう?私はこの男だけでなく他の聴衆に対しても苛立ちを覚え始めた。 「いじめられっ子はそうすることで、普通の子供達の豊かな心が失われて行く様子を見るのが大好きなのです。そのためだったら何をされても我慢する、いや我慢することすらも楽しみにしている、そんな悪魔のような子供たち、それがいじめられっ子です」 もう限界だ、聞くに堪えない。この場で講演者に抗議する勇気を持ち合わせていないのは恥ずかしい限りだけど、ささやかな抗議の意味を込めて私は会場から抜け出すことにした。 「例えばほら!今ここを去ろうとしているあの人を見てください」 男が私を指差して叫んだ。ご丁寧にピン・スポットまで当たる。 「彼を見てると皆さんの優しい心が少しずつ失われて行くのが解りませんか?酷い目に合わせたいという悪い感情が沸き起こってくるでしょう」 聴衆は一斉に私を見た。皆、私に敵意を向けている。私にいじめられっ子の素養があったのだろうか。まずいことになってきた。 「ここで、その悪い感情に負けてしまっては卑劣ないじめられっ子の思う壺です。皆さんのお子さんや生徒さんも、いじめられっ子の前では今の皆さんと同じように純粋な心を蝕まれます。この気持ちに打ち克つ方法を今日は是非とも体で覚えて子供たちに教えてあげてください」 いろいろと酷いことを言われて最低な気分だが、どうやら命だけは助かりそうだ。どうやるのかは知らないが悪い感情というやつに打ち克ってくれ。私は一刻も早くここから逃げ出すとしよう。 「悪の感情に負けないよう、心を無にして悪を征伐しましょう。そうすれば皆さんの心は綺麗なまま、いじめられっ子の悪魔のような楽しみも奪うことができます」 無表情な集団が私に迫ってきた。 人形の街
「次の話だけどね 【通称『人形』と呼ばれる精巧なロボットを作る人形師が主人公】 と言うのはどうかな?」
「うーん、今ひとつ何か映えるものが無いかな」 「そいつはいつも肩にマスコットを乗せているんだけど、それがまた精巧にできてて良くしゃべるんだ。それで、実は…」 「あ、もうそれ解っちゃった。人形師の正体は実は…てやつでしょ。そのパターン結構あるよ」 「え?他にあるのか。だったら駄目かな」 「ここから、もう二捻り半くらい欲しいところだ」 「捻りまくりだな」 「それ知ってるってところに一捻り入れて、驚いたところでもう一捻り半入れてやれば驚きも大きいと思う」 「じゃあ 【人形師もマスコットも実は『人形』で、人形師の工房で見習いをしてる子供がすべて作ってた】 というのはどうだ?」 「それだと、一捻りってところかなあ」 「厳しい評価だな。だったら 【人形師の工房に居る人も含めて、街の人たちはすべて『人形』。ただ、ある一人だけが人間でそいつがすべての『人形』を作った】 というのは?」 「なんかどんどん大げさになっていくけど悪くないな。その『人形』達は自分達が作り物だと言う自覚はあるわけ?」 「ある。でそいつらは街の中に一人だけ自分達の造物主がいるということも知ってるんだけど、それが誰であるかは知らされていない訳だ」 「でも人間である当人は知ってるんだから別に問題はないだろ」 「ところが、そいつが事故で記憶を失ってしまって、ここが『人形』だけの街だということもそれを作ったのが自分だということも忘れてしまうのだ」 「でも自分は人間だと思ってるんだろう?」 「もちろん」 「だったら周りの『人形』達から浮くのではないか?結果として自分だけが人間だということに気付くと思うけど」 「まず、『人形』達は普段から人間と同じように過ごしてる。次に人間は一人で暮らしているのでロボットの普段の生活は解らない。それに『人形』達の世界は閉じているのでわざわざ自分達がロボットであるという話をする事がない。こういった理由で記憶を失った造物主はここが人間の社会だと思ってしまう訳だ」 「そうか。『人形』しかいない世界であるがために自分達が『人形』であることが話題に登らない、その結果逆に異分子である人間は自分が異分子であることに気付かないという事だな」 「そういうこと。ただ、その造物主である人間がしていた仕事がなされなくなっているので、このまま放っておくと街は停止してしまう危険性がある」 「そこで主人公はどんな役割を?」 「主人公はこの『人形』社会の中でこういったトラブル時に問題を解決する役割を与えられていて、記憶を失った自分達の造物主を探して、記憶を取り戻してやらなければいけない」 「つまり、人間のようなロボットばかりの街の中で、ロボットがロボットの視線で人間を探す訳だ」 「うん。人間が異分子であるという『人形』側の視点を上手に描くことができれば面白くなると思うな」 「何だか面白そうだ。よし、それで行こうよ」 「いや、その必要ハナイ。発見シマシタ。捕獲シマス。応援ヲ頼ミマス」 |
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